Camera&LensReview

Sorry Japanese only so far. Camera and lens review from photographer's viewpoint.

SONY α9 レビュー(Leica使いの視点から)

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ソニー α9 レビュー

 

はじめに

軽い気持ちで手に入れたものが思いのほか心地よく、気が付くと手放せない存在になっていたりするのは人生の常ですが、僕にとってのα9はまさにそんな存在。気が付くとMシステム並みの稼働率。このカメラも発表以来時間が経ち、IIの登場が目前に迫っていますが、使い倒してのレビューをまとめてみます。

 

思いつきで導入がどハマり

仕事がらみで撮影を行うこともあり、趣味のカメラとは別に手元には常に一眼レフのシステムを一式キープしていた。しかしLeica中心になってから全く稼働なし。そんな中、突然のα9発表。旧世代の機械技術を一瞬で無力化したデジタル技術に衝撃を覚え、どうせ使わない一眼レフシステムなら面白い方優先ということでNikonシステムを全て売却。追い金なしで発売直後のα9と2470Zを手に入れた。

正直おもちゃとしての役割しか期待していなかった。ところが使うにつれ、その圧倒的な撮影体験に魅了されていくのだった。

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Sony A9, FE24-105mm F4G

 

無音撮影の衝撃

スナップフォトグラファーならみんな、ああ今自分の目がカメラだったら、って思った経験があるはずだ。α9は、自分の目がカメラになるのに最も近い体験を提供してくれる。それはこのカメラの様々な機能が組み合わさって実現されているのだが、その中でも特に重要なのが大型センサー機として世界初の常用可能な無音電子シャッターだ。

確かに指でシャッターは切る。しかし体感的リアクションは何もない。なんつーか、目の前を流れている時間にサクサクとフラグ立ててる感じ。で、あとから見返すとちゃんとフラグたてた瞬間の世界が記憶されてる。それはまさに、撮影が肉体の仕事から脳の仕事に切り替わってしまった感覚だ。

この感覚は、ヨドバシやソニーショップのデモ機で無音連射してもまったく理解できない。ちゃんとストリートにカメラを持って出ないと分からない。特に広角を付けて街歩きするとフラグ立てる感覚が顕著。

こう文章で書いても、おそらくこの感覚はリアルα9ユーザーの、さらに一部のスナップシューティング系の人にしか伝わらないと思う。それはLeica MシステムのUXの素晴らしさを言葉で伝えにくいのによく似ている。

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Sony A9, Summilux 21mm

 

肉体化

このカメラは十分軽い。加えてEマウント機の弱点だったホールディングが大幅に改善されている。もちろんレンズも小型軽量を意識して作られている。そして圧倒的にレスポンスがいい。これらの要素が組み合わさって、このカメラは体との一体感を強く感じる。

カメラを右手にぶら下げて街に立つ。そぞろ歩きをしつつ、気に入った瞬間が訪れる予感がしたらカメラを構える。構えると同時にAFは完了。タイミングを見計らいレリーズボタンを押しその瞬間に無音でフラグ立て。この間ほぼ数秒。視線は次の絵を探して街をさまよう。そのときにはもうカメラは意識から無くなっている。

 ライカの撮影体験に似てはいるけど、大きく異なるのは撮れたという確信が得られないこと。ここがアナログ志向の人にα9が好まれない理由だと思う。ただしこれは一長一短。撮影の味わいという点ではライカUXに負けるが、場との一体化という意味ではα9の方が上だ。ライカ以上にカメラは意識から消えるので場に集中できる。

身体に組み込まれる前の、独立機として存在しているカメラの究極の撮影体験が、このカメラによって明らかになったと思う。そう、こいつは正真正銘の化け物だ。

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Sony A9, FE24-105mm F4G

 

で実際どうよ

飲みながら空シャッター切るのが主な利用シーンになると思いつつ導入したα9だが、気がつくとかなり世界中連れ歩いた。この丸二年使い倒して気づいた点を列挙するとこんな感じ

 

よかった点

  • 画質十分以上。こいつにBatis25を装着すれば、僕的画質王者のLeica Qにも大きな引けを取らない。確かにローパスレスのQの方が細部はカリカリだけど、逆に室内や夕方以降はセンサーの差でα9の勝ち
  • デザイン好き。自分的には一眼レフで最もかっこいいと思うのがCanon New F-1なんだけど、α9はその遺伝子を引き継いだようなお姿。
  • しかも十分小型軽量で世界中連れて歩ける。
  • 本体充電可能は旅カメラとして神。
  • 驚きのアップデートで常に最新。さすがプロ機。
  • 正直、広角メインなんでAF-Sばっか使ってたんだけど、ファームV5.00以降はAF-Cが意図通り動くんで多用。特に拡張フレキシブルスポットは今までAF-Sでやってたことをコサイン収差なしで実現できる。実質的にAF-Sの存在意義が消滅。
  • Batis25という神レンズを使えば、デジタル表示窓でLeicaレンズ以上に正確な被写界深度を使ったマニュアルフォーカスが可能。
  • 高感度強い上に手ブレ補正も付いてるんで夜の撮影最強。
  • Leica Mレンズをセットしても目立った周辺色被り無し。Summilux 21mm用のボディーとしても最適。 

気になる点

  • 確かにグリップが小さく小指あまり発生。自分は軽いレンズでの運用が多いので大丈夫だけど、重いレンズを多用する人とか手の大きな人には不快かも。その場合は延長グリップが必要。
  • 個人的にPASMのモードダイヤルがほんと嫌い。M10見習ってきちんとシャッターダイアルとISOダイアルを搭載して欲しい。
  • 昭和のプロ用機の思想を引きずっているためか、各種物理ダイアルにロックが付いていて操作うざい。
  • Leicaシステムと比べるとあちこち凹凸があるので、収納性は悪い。
  • 小型軽量のパンケーキレンズが少ない。FE35mm F2.8は悪くないけど、28mmにしてさらに薄いやつとか、40mmの薄いのとか、欲しい。
  • 被写界深度使えるのが一部のレンズに限られる。特に小型軽量系で被写界深度表示無いのがもったいない。
  • デザインかっこいいのに、ソニー純正のアクセサリーが安っぽくダサく満足感沸かない。

まあ、気になる点のほとんどはLeicaと比べるとほぼ全ての一眼に言えることなんで、α9固有の欠点はあまりないかも。

 

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Sony A9, Summilux 21mm

 

本当の姿

Leicaと比べてつくづく感じるのがα7/9シリーズのフレキシビリティ。カメラの構え方もフォーカスの仕方も自由自在。なんつーか、一眼としての使い方はもちろん、コンパクトカメラのようにも、ライカのようにも、ハッセルのようにも、ローライのようにも、リンホフのようにも、はたまた動画専用シネカメラのようにも使えてしまう。レンズを変えればLOMOっぽくも大判写真っぽくも撮影できる。変幻自在。

同時に思うのが使う側がこのカメラをどんなカメラとして育ててゆくか意識することが重要だということ。昔ある写真家が「古いカメラは構えがカメラごとに決まってるからライカはライカっぽい写真が、ローライはローライっぽい写真が撮れる。そこがいい」って言ってたことを思い出す。

オーケイ、君が何でもできるのはよく分かった。いざとなれば何にでも変身できるのもよく分かった。でも、僕にとっての本当の君はどういう君なんだい?

このカメラを使う上で最大のポイントはこれを決めることだと思う。そしてそれに従って操作系をカスタマイズし、その操作感を体に染み込ませること。僕は当初ライカ的な使い方でこのカメラを育てようとしていた。しかし今ではマニュアル一眼レフ的な使い方がメインになっている。カメラの形状とファインダーの物理的配置が僕のマニュアル機の記憶を呼び起こすのだ。

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Sony A9, Summilux 21mm

 

単体プロ機復活

さて、ここまでで気づくかもしれないけど、このカメラ最大の売りである秒20コマ連写については、実はあまりメリット感じてない。まあ、面白機能としてたまに使いますが。世間一般では最高速フルサイズ機として知られるα9だが、僕にとっては久々の小型プロ用機ってとこが一番の魅力。そう、モータードライブを付けない単体のNew F-1やF3の後継機は間違いなくこのα9。

その昔、New F-1かF3の単体を片手に世界を巡るのが夢だった。しかしデジタルになった今、肥大化し巨人化したEOS-1dxIIやD5を旅に連れて行こうなんて微塵も思わない。プロ機との旅という夢はフィルム時代の終焉とともに終わったと思ってた。そこにまさかのα9降臨。

メーカーがプライドをかけて作った高品質で信頼性の高いこのプロ用カメラを片手に、これからも世界中を歩こうと思う。

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Sony A9, FE24-105 F4G