Summilux 35mm f1.4 ASPH レビュー
ズミルックス 35mm f1.4 ASPH reviewブログ
プロローグ
僕は長い間、35mmという焦点距離を不得意としてきていた。自分にとっての標準は完全に50mmであり、それと組み合わせる広角は28mmが心地よく、35mmでは近すぎるためだ。そもそも35mmは銀塩時代はコンパクトカメラのレンズの代表格で、なんとも中途半端なイメージが僕にはこびりついていた。
50mmと28mmの組み合わせで撮影をする時は、50mmが中心で、8割以上を50mmで撮っていた。ところが海外の街をふらつきながら写真を撮ることが増えるにつれ、28mmの割合がどんどん増えていった。前にレビューしたElmarit 28mm ASPHがとてもコンパクトで使いやすいこともあいまって、滞在ホテルから他の街に足を伸ばすときには28mm一本でということも増えてきた。そう、明らかに自分の視線が広角よりに変化したのだ。加えて、こちらもすでにレビューしたNokton classic 35mmの描写に魅了され、使いまくっているうちに、35mmへの苦手意識も薄らいできた。
そうして、長い間自分の中で迷っていた、標準Summiluxは35mmと50mmどちらにすべきかという問に結論を出すことができた。
Leica M9, Summilux 35mm f1.4 FLE
ちなみにFLEはフローティングエレメントを指し、このレビューで取り上げる11663を前世代のSummilux 35mm ASPHと区別するためにつけています。
圧倒的なコンパクトさと丁寧な作り
焦点距離35mmの大口径レンズは各社から販売されている。しかしみんな大きくて重い。
Canon EF 35mm f1.4L II
- 長さ 105.5mm
- 重さ 760g
Nikon Nikkor 35mm f1.4G
- 長さ 89.5mm
- 重さ 600g
完全に500mlのペットボトルよりも重い。ところがSummiluxは、
Leica Summilux 35mm ASPH FLE
- 長さ 46mm
- 重さ 320g
ということで、長さも重さも半分。AFモーターが組み込まれていることを考えても、圧倒的なコンパクトさだ。これは、ミラーボックスの無いLeica Mシステムでは50mmレンズと同様な明るくてコンパクトな35mmレンズを作りやすいという技術的背景に加え、ライカ社自体の、Mシステムはなるべくコンパクトにしたいという思想の表れだ。
作りも丁寧。今となっては貴重な現行マニュアルフォーカスレンズ。フォーカスリングのしっとりとした回し心地は最高。レンズの被写界深度表示は、AFレンズにも申し訳程度に付いてはいるが全く使い物にならない。マニュアルフォーカスのSummiluxはしっかり一絞り単位の被写界深度の目盛りが真っ白な塗料でくっきり描かれている。見やすい!もちろん、長年使ってもハゲにくいように金属面に彫りを入れてそこに塗料を流し込んでいる。
このあたりからモノとしての愛着が一気に増してきますね。
フードは金属製。傷がついても味になる。もちろん、内側は無反射塗装。おまけにファインダーの視野を妨げないようにくり抜きがあるという凝りよう。
Leica M9, Summilux 35mm f1.4 FLE
圧巻の描写性能
さて、写り。もう、圧倒的にSummilux ASPHの35mmの写りです。全く説明になってませんね。言葉で言えば、ピントあったところはウルトラシャープで、ピント外れたところは透明にとろける。結果として対象物が浮き上がる3D描写。
実際に見てみましょう。比較のため、対照的な写りをするNokton classicと並べて見てみましょう。
Leica M9, Nokton classic 35mm f.14 MC, at f1.4
Leica M9, Summilux 35mm f1.4 FLE, at f1.4
二枚ともf1.4にて撮影。このサイズだと違いがやや分かりにくいです。なので、拡大してみましょう。
Nokton classic 35mm f.14 MC, at f1.4
Summilux 35mm f1.4 FLE, at f1.4
はい、完全に別物ですね。Noktonは手ブレでもピンぼけでもありません。開放ではこういう写りになります。まるで霧がかかったような幻想的な写り。一方でSummiluxは切れそうなほどリアルでシャープ。Noktonは遠い記憶の中のシーンのようなセンチメンタルな雰囲気の絵になるが、一方でSummiluxはもっとなまめかしく濃厚な描写になる。
これは一種の表現方法の違いであり、一概にどちらが価値が高いとか低いとかという話ではない。だけど実際にはこのレンズ、実売価格で10倍以上の差がある。これは、Summiluxが少数生産のドイツ製であることを差し引いても、カメラ用レンズというものが基本的にコストベースの価格付けであるからで、35mm f1.4で合焦面でここまでのシャープさを出そうとすると、レトロな写りのレンズの何倍ものコストがどうしてもかかってしまうのだろう。
次はBokehの部分で比較。
Nokton classic 35mm f.14 MC, at f1.4
Summilux 35mm f1.4 FLE, at f1.4
Noktonは、少しかすれるような、やや落ち着いたぼけ。一方でSummiluxは油に絵の具が溶けてゆくような、とろりとしてなまめかしいぼけ。背景によっては少し二線ボケになる可能性はあるが、絵としてはSummiluxの方が華やか。
このぼけの違いも画面全体を通してNoktonは感傷的に、Summiliuxは官能的に写る要因だ。
35mm一本くんの旅
Summilux 35mm ASPH FLEを手に入れたら、まさか予期していなかったが、海外旅行に35mm一本で旅立つようになった。何と言っても夜に強い!広角でf1.4ですから。
重さもSummicron 50mmとは100gも違わない。総重量はElmarit28+Summicron50の二本持ちよりも軽い。壮大なヨーロッパの建築物が画面に入り切らないこともあるが、そんなときは縦位置を使ったりしながら構図を工夫。なんとか絵にする勉強になります。
そして楽しいのは絞りのコントロール。開けると官能的に背景がボケ、閉じると広角らしくパンフォーカス。35mmは広角レンズではありますが、絞りで表情ががらりと変わります。まるでレンズ交換しているみたい。M10でライブビューで試すと、この表情の変化がよくわかって面白い。絞りリングが完全にBokeh調整リングになります。
Leica M10, Summilux 35mm f1.4 FLE, at f1.4
ご覧のように、開放ではやや周辺光量落ちがあり、それが逆に中心部のスポットライト効果になります。
いやー、面白いなー。50mmをメインに撮っていた時は、いつも50mmの絵だった。ところがSummilux 35mmだと、50mmレンズっぽくも、28mm以上の広角っぽくも撮れる。この表情の豊かさこそが、僕がSummilux35を好きな理由だ。
Leica M10, Summilux 35mm f1.4 FLE
まとめ
以前仲間たちと海外に行った時、50mm一本でみんなの写真を撮りまくった。おかげさまで最高な表情がたくさん撮れたんだけど、飲み会だけうまく撮れなかった。なにせ自分も一緒に楽しく飲んでるんで、みんなが近すぎて50mmだと辛い。50mmは観察者としての標準レンズだ、でも35mmは、自分も場の仲間として溶け込むことのできる標準レンズだ。例えばそういうことを、このレンズは僕に教えてくれた。他にもいろいろなことをこのレンズは僕に教えてくれる。あらためてこのレンズと向き合うと、このレンズの持つポテンシャルの大きさと魅力の深さに感銘を受ける。それと同時に全くもってこのレンズのスケールに自分がついて行けていないことも思い知る。このレンズとじっくり付き合いながら、隠れた魅力を少しずつ引き出して行きたいと思います。
Leica M9, Summilux 35mm f1.4 FLE, at f1.4