Camera&LensReview

Sorry Japanese only so far. Camera and lens review from photographer's viewpoint.

Leica M9 レビュー

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ライカM9 reviewブログ  (Sep 9, 2010執筆)

 

プロローグ

フルサイズセンサーを搭載したM9は、銀塩時代の撮影スタイルが身に付いてしまった僕にとって、あまりに魅力的な製品だった。ライカに没入してしてしまう危険性を知っていたので、まずは中古品のM3に逃げた。でもそれは没入の始まりだった。M3のあまりに快適な撮影体験にはまり、その後とあるショップで瞬間的に在庫となったM9に遭遇するやいなや即決購入。次々に各種レンズに手を出しつつ現在に至っている。

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Leica M9, Noctilux f1.0, at f1.0

 

圧倒的に世界最小の35mmフルサイズセンサー搭載デジカメ

M9の外観はM3以来のM型ライカの基本形を受け継いでいる。大きさは139x37x80(mm)と、M3の138x33.5x77(mm)とほぼ同じだが、厚みが10%ほど増えている。これはフランジバックが同じままセンサーと液晶の厚み分が後ろに飛び出したものなので、このレベルで済んでいるいるのは上出来だと思う。M3に慣れてしまった目には最初違和感を感じたが、すぐに慣れてしまった。

重量は電池込みで585g. これは何を表すかというと、M9が世界最小最軽量の35mmフルサイズセンサー搭載のデジカメだということ。このカメラに現行Mマウントレンズでおそらく最小のColor Skopar 35mm PII(134g)を着けると合計重量719gの世界最小35mmフルサイズデジカメだ。ちなみにCanonの最軽量フルサイズ機はEOS 5D MarkIIの890g(電池込み、本体のみ)、Nikonの場合はD700の995g(電池抜き!、本体のみ)とお話にならない。これだけで現代のデジタル版のライカMシステムは存在意義が十分にある。おおまかに言うとMシステムは同じスペックのEOSシステムと比べて4割軽量。ぎりぎり世界最小なのではなく、圧倒的に世界最小ということだ。大きなベンツとF1くらい違っていて、比べること自体が誤り。

作りはすばらしい。主要な部品は金属製で質感が高く、動きも剛性感があって、往年のライカの雰囲気を残している。ところが、背面のデジタル系の操作ボタンは樹脂製中心のいわゆるデジカメっぽい。電子ダイヤルと十字キーも樹脂製で、シャッターダイヤルやフレームセレクターのしっとりとした操作感とはあまりにかけ離れていて、とても同じ機械に付いた操作系とは思えない。このあたりがやや不思議。

バッテリーとSDカードの交換は、M8同様ライカの伝統を守った底蓋分離方式。この方式への固執には賛否あるが、カメラの底蓋としては造りが突出して良いので、僕はオマージュとして残してもいいのではと思ってる。

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Leica M9, Nokton classic 35mm f1.4 MC, at f1.4

 

撮影感

Leica M9の機能についてはすでにあちこちでレビューされているので、細かく触れない。このレビューではどちらかというと写真を撮るのにばんばん実用してみた結果、どう感じたかを極めて主観的に書いてゆこうと思うし、その方が価値があると思う。

さて、まず撮影した感じなんだけど、これはもう、極めてライカ的といいますか、M3と同じく、空中に浮かぶブライトフレームで空間を切り取る感じ。ただ、ファインダー倍率がM3よりも落ちるので、若干ピント合わせしにくく、また両目開けたときに最初少し違和感あり。すぐ慣れたけど。

シャッター音はM8よりは小さいけど、銀塩Leicaよりはるかに大い。特にシャッターのチャージ音が昔の銀塩一眼レフのワインダーっぽいメカニカルな音。指を離すと巻き上げされる分離チャージのモードがあるけれど、ものすごく違和感があったのですぐやめてしまった。

まあ、M3と比べたら多少の違和感はあるが、すぐに慣れる。慣れればM3のごとくさっと情景を切り撮れる。しかもこちらは16GBのSD突っ込んでおけばフィルム20本以上入っているも同然。実に心地よく撮影可能。

28mmの広角を付けf8まで絞る。レンズの被写界深度指標を見ながら、ピントは勘で合わせておく。露出は日向と日陰だけ計って、あとはマニュアルで。おいしい景色があったらさっとカメラを構える。ファインダーはフレーミングだけに使う。場合によってはノーファインダー。あとはインスピレーションでシャッターを切る。どんな構図でも露出は暴れないし、ピント位置がどこにあってもファインダー像はクリアー。撮った直後に1秒間だけ表示されるレビュー画像をチラ見。次の瞬間にはもう別の絵を探して歩みを進める。Leicaを使うと、こういう撮り方が実に快適にできる。まあ、デジタル一眼でもできなくはないんだけど、オートマチック車のマニュアルモードと同じで、本来の使い方じゃないから心地よくない。ざらつくマニュアルフォーカスの感触、電子ダイアルで直感性に乏しい絞り調整、なにより重いから片手でさっというわけにはいかない。

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Leica M9, Elmarit 28mm ASPH

 

カメラの基本的な知識があれば、さらにいくらでも応用できる。超広角付けて、地面にピント無限遠にしたカメラを仰向けに置き2秒セルフタイマー使って星空を撮影するとか、深めに絞ってピント近距離で目測で合わせ腰を落として路上の花を青空バックに仰ぎ見るように写すとか。絞り、シャッタースピード、ピント、フレーミングをすべて直感的に操作でき、しかも小型でハンドリングしやすいことがLeicaの特徴。いちいちメインメニューから下に降りなくても、この手の操作がさっとできる。まさに人馬一体。それが心地よい。

 

解像度

既に解像度テストはいろいろなサイトで実験済みなのでここではあえてテストはしません、が、現行35mmフルサイズセンサーとしては最高峰の一つ。Summilux 21mmをF8まで絞り込んで撮影した樹木を半切にプリントしたけど、もう、窓から景色みているみたいな圧倒的情報量。27インチディスプレイに全画面表示すると、もう吸い込まれそうで怖いくらい。

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Leica M9, Summilux 21mm ASPH

 

やはりローパスレスの威力は凄まじい。

 

6bitコード

M9のCCDは、画面の周辺部のマイクロレンズの曲率が変化する特殊な設計で周辺部の劣化を防いでいる。この劣化防止を最適に行うためにカメラにどのレンズが着いているかレンズ交換ごとに入力する必要がある。最近のライカ純正レンズは6bitコードというマーキングがついていて自動で読み取れるんだけど、古いレンズやNOKTONのような他社製レンズの場合はこのコードが無いため、レンズ交換ごとに手動で入力する必要がある。はっきり言ってこれ、すごく面倒で、よく忘れてしまう。手元のライカ製旧型レンズは改造かな。一本13,650円也。ただ、NOKTON classic 35mm f1.4はそもそも改造不能。

世の中にはいろいろクリエイティブに工夫する方々がいらっしゃって、黒いテプラを使ってフェイクコードを書く手法が確率されている。僕もこれ試したんだけど、何度か着脱しているうちにすぐにテープがずれて認識不能。やはり面倒でもマニュアル入力が確実ですね。体を慣らさないと。

 

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Leica M9, Noctilux f1.0

 

何故Mシステムの沼に誘われるのか

おかげさまで見事にレンズ沼って奴に浸かっているが、浸かれるってことは、Mシステムがすばらしいということだ。僕はカメラがAF化した時点でメインシステムをEOSシステムに切り替えた。キヤノンのEFレンズシステムもLレンズと呼ばれる高級レンズを中心にかなりマニアックだけど、残念ながら深くはまり込むことができなかった。何故か。

 

・ズームレンズにばかり注力し、単焦点レンズのリリースが遅い

単焦点Lレンズは大鑑巨砲主義で明るいが大きくて重い

・非Lの小型単焦点レンズは設計が古くフルサイズの解像度についていけない

・一眼レフの構造上広角レンズが設計しずらく、すごいレンズが少ない

・そもそもAFレンズのためタッチ&フィールに劣る

・小型広角レンズのオートフォーカス機構が古くてうるさい

...etc

 

とまあ、理由を細かく書き出すとどんどん書けるんだけど、まとめると、

 

・小型高性能なレンズがない

・超高性能レンズは化け物みたいにでかくて日常利用不可

・利用頻度の高い広角が弱い

 

の3つ。

逆にMシステムはここがすばらしい。

 

・すべてのレンズが一眼レフ用レンズに比べて小型

・とくに超高性能レンズはレーシングマシンのように小型軽量

・35mm以下に伝説のレンズが数多く存在

 

おまけに、質感も最高だし、明らかに魅力度高い。

僕はEF50mmf1.0Lと兄弟にあたるEF85mmf1.2Lというレンズを持っている。EF50mmf1.0Lと大きさはほぼ同じで重さは数十グラム重い程度だ。このレンズ、本当にほれぼれする写りをするが、じゃあバケーションに連れてゆくかというと、絶対に不可能。重さも容積もありえないくらい巨大だからだ。はっきり言って、EOSの超高性能レンズは僕にとってはスタジオ用機材のようなものだ。だから悲しいことに圧倒的に出番が少ない。

ところがライカの超高性能レンズは十分移動に耐えられる。M9+Noctiluxなら南の島でのバケーションにも十分持って行く気になる。M9+Summilux21mmは旅先のレンタカーのドリンクホルダーに突っ込んでおけた。EFに21mm f1.4Lは存在しないが、出たとしてもこんな芸当は絶対にできない。

旅先に超高性能レンズを連れてゆく。非日常のすばらしい情景をこのレンズで写し込む。旅先から帰り、PCでじっくりと現像&作品作り。画面で見てレンズの性能に驚嘆し、半切くらいに大型プリンタつかって伸ばしてさらに唖然。次はもっと別のレンズで試したいと思いレンズ物色…。

と、こういうサイクルが恐ろしいことにくるくる回ってしまう。そして試すレンズ試すレンズそれぞれ個性的なのでサイクルが加速。

逆にCanonの高性能L単焦点の場合、重すぎて日常のスナップは不可で、ここぞという出番を待つ。きれいな景色の場所に旅行に行くも、家族連れに巨大な一眼レフシステムは不可能で、ライカやコンデジに取って代わられる。かといってモデルさん撮る撮影会とかにはシャイなので行かない。たまにLeicaレンズと性能比較のために、空き缶とかビルの遠景を撮影…というクリエイティブツールとしては悲惨な状態。ほんとうにごめんなさい85mmf1.2L様。

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Leica M9, Noctilux f1.0

 

まとめ

デジタルライカMシステムの魅力の本質は世界最小の35mmフルサイズシステムであるということ。日常でも旅先でも無理せず超高性能レンズを多用でき、たくさんのシーンを写し、その性能に驚嘆。趣味としては最高だね。大型化してしまった一眼レフ用の超高性能レンズはもはやカメラ命という気合いがなければ外に持ち出せない。それは機動性が革命的だった35mm判カメラではなく、もはやスタジオ機材みたいなものではなかろうか。M9は、その事実を明らかにし、僕達に選択を迫ってくる。